Seal=印章 とは、封筒を閉じた後にロウを垂らして型を押す封印のことです。参照:ウィキペディア→
池末隆氏の提案により作図・考察し始めました。
バッハ本人がデザインしたという「印章」の上部の王冠に、「丸い7つの真円」と「押しつぶされたような5つの楕円」があり、 1980年に出版されたHerbert Anton Kellner氏 の書籍に、これに基づいた一つの調律法が提唱されています。
「上の真円は純正五度を表し、下の枠の中の楕円は狭く調整された五度を表している」と解釈されたKellner律では、「5つの狭い五度の内の1つ」が B-#F に設定され、広い三度(ピタゴラス三度)が少なくなっています。
私も1つの仮説を立て、左の図のように、オルガンの古くからの調律法の流れや、「平均律クラービア曲集 第1巻」の渦巻き模様(Jobin氏解釈)の調律法の流れに沿って、狭い五度を素直に5つ並べてみました。
参照:調律法の変遷~パイプオルガンから現代ピアノへ~
7つの純正五度の合計は、[702×7=4914¢]。
残りの5つに割り当てられるのは、[(8400ー4914)÷5=697.2¢]。狭い五度の濁りは、ミーントーン[696.5cent]よりも若干緩和されます。
この狭い五度をC→G、G→D、D→A、A→E、E→B、と5つ並べると、C-e と G-b が「純正三度に近似した和音」に設定され、ミーントーン同様、十分厳格さを持った祈りを象徴する響きとなります。
一方、Fis-DurとDes-Durが完全なピタゴラス音律になり、広い三度がメロディーにふさわしい音程として、あるいは独特の和音としても感じられます。また、その中間の調の個性も規則正しくグラデーションのように設定され、調による多様性を持った、たいへん好感がもてる調律法となります。
追記:
[ Bach/Seal調律法の半音階を図にしてみました ]
ルネサンス時代から長い間、鍵盤楽器の音楽に大きな影響を与えてきたMeantone調律法は、ウルフ(狂った広い五度)を緩和しながら少しずつ変化していきます。バロック時代に入ると、ウルフの解消と同時にピタゴラス音律が現われ、各調(各和音)固有の響きが、多様性として認知されるようになったと考えられます。
その時の半音階は、Meantone調律法の半音階の特徴の極端さを緩和する形で引き継がれています。
また導音に着目すると、ミーントーン音律となるハ長調(C-dur)はシ→ドの半音が広いのに対して、ピタゴラス音律の変ニ長調(Des-dur)や嬰へ長調(Fis-dur)のシ→ドは狭い音程になっています。
この調律法により、調和した和音重視のミーントーンも、メロディー音程重視のピタゴリアンも、その中間的な個性を持つ様々な調の選択が可能となったと言えるでしょう。
王冠の下の模様には、バッハのイニシャルが使われていて、ほんとに楽しいデザインとなっていますね。
※図の中の印章のデザインは模写です。J.S.Bのイニシャルが目立つように描きました。王冠の真珠には、十二音相環図で設定している五度の色を着色しています。
実践履歴
2014-11-01 福田ひかりピアノリサイタル~古典調律で聴くバッハVol.1「インベンションとシンフォニア全曲」atピアノ工房アムズ
http://okamotopiano.jp 岡本ピアノ工房 岡本芳雄