和音の表情 ~いろいろな長三度~

古典調律法にはいろいろな長三度の音程が登場します。 厳格な・おだやかな・うきうき・元気・緊張・不安・・・
それらは、音程の違いと共に、2つの音から発生する唸りの数によって醸し出されています。
音楽の中で、三度の重音だけを伸ばして聴くことは ほとんどありませんが、その響きを再認識するために、 おもな調律法に登場するいろいろなC⇔Eの音程や響きを録音しましたので ぜひお聴きください。
※楕円図の中の( )内の数値は、純三度と比べた音程の差(単位cent)です。

下の青いファイル名をクリックしていただくと、ビデオファイルのダウンロードが始まり、自動的にWindowsMediaPlayer等が起動し再生できると思います。
  

まずは、違いの判りやすい 「純長三度」と「平均律の三度」と「ピタゴラスの三度」 の、 三つの長三度の比較をお聴きください。
クリック3つの長三度(ビデオファイル)

 
今度は、古典調律に出てくる代表的な長三度を6つ並べてみました。
少しずつの変化は耳が慣れてきて判りにくくなってしまいがちです。ぜひ何度も聴いて、その違いを楽しんでください。
クリック6つの長三度(ビデオファイル)(再生時間約2分)

 

最後に、2cent違いで15種類の長三度を比較してみました。
上記二つのファイルを聴いていただいて、もっと聴きたいと思われた方や、 2centずつ違うそれぞれの長三度がどんな表情をもっているのか詳細に検討されたい方にお勧めです。
クリック15コの長三度(ビデオファイル) (再生時間約5分間:単純な音形が15回も続きますが、任意の場所へ早送り巻き戻しもできます)

 

【解説と考察】
384centの三度は、純正五度で構成されるピタゴラス音律を12の鍵盤すべて設定しようとした結果、最後の5度が極端に狭くなって出来てしまった長三度で、純正三度よりも狭い音程です。少し濁った感じになります。暗い響きにも感じられるのではないでしょうか?

Pure(純正三度)は、「ミーントーン」や「キルンベルガー」etc.で使われている唸りのない和音です。
人によっては 『弦が緩んだような・・・』『暗い・・・』 と 感じられる方もありますが、 唸りのない長三度の響きは、特に和音進行の中で終止音に使われると、祈りを象徴する響きとなります。

平均律より唸りの少ない長三度は、あたたかい穏やかな響きに感じられると思います。
特に多くの古典調律に現れるF-a。また、 B♭-d 、そしてD-f♯ がその代表です。
メロディーやアルペジオとしては、やや暗く感じられるかもしれません。

平均律の長三度は、現代ではもっとも馴染みのある音程と言えるでしょう。重音では思いのほかたくさんのうなりを持っています。唸りの少ない長三度を聴いた後では、濁ってきこえたり、平べったく感じるかもしれません。
一方、メロディーの音程としては、都会的で整った感じのする音程感を持っています。ピアノで演奏される時の、どの調からも同じように聞こえる「ゆらぎ(うなり)」は、心地良さとして感じることがあります。

平均律より広い長三度の和音は、唸りの多さから落ち着きがなく感じがしますが、曲に合うとウキウキした元気な響きが聞こえてきます。また、メロディーの音程としては、伸びやかな心地良さとして感じられることでしょう。

ピタゴラスの長三度は、重音としては唸りが多く調子っぱずれに聴こえることもあるでしょう。 あるいは多すぎる唸りを認識できないかもしれません。
音楽の中で適所に使われると緊張感不安感せつなさ を醸し出し、メロディーやアルペジオでは、伸びやかな気持ちの良い音程に聞こえていることがあります。
また、純正五度を重ねた箏や笙などでも使われている音律で、この三度が宇宙の広がりのような響きとして聞こえてくることもあります。

410centや412centの長三度は、【バッハ手書きの平均律クラービア曲集の表紙デザイン】から『EmileJobin氏が解読・発表された調律法』で使われています。
ピタゴラス長三度よりさらに唸りが多く、純正長三度音程からは 1/4半音 ほどもかけ離れています。 しかしそのため、ヴェルクマイスターやキルンベルガーなどより、さらに調のコントラストが強く出ることになります。私は、平均律クラビーア曲集第一巻8番にとてもマッチしているのがたいへん気に入っています。

※VW = VeryWell-Temperament (私のオリジナル調律法)

録音に使ったピアノはSCHIMMEL社のアップライトピアノです。

http://okamotopiano.jp 岡本ピアノ工房 岡本芳雄