Bach WTC / Emile Jobin (2005)

BachWTC-Jobin

バッハ自筆の楽譜「平均律クラビア曲集 第1巻」に、“Das Wohltemperirte Clavier” (The Well-Tempered Clavier)のタイトルに添えて、12個の連続した渦巻き模様が描かれています。

1999年、この渦巻き模様が『調律法を表しているのではないか』と発表したのは、Andreas Sparschuh氏(数学者)。
その直後から、多くの人がこの渦巻き模様に注目し、様々な解釈が発表されました。

数ある解釈の中、2005年、Bradley Lehman氏の発表を受け、独自の解釈を発表したのはEmile Jobin氏。
私はこれを、ベルギー在住のオルガニスト綿谷優子さんの日本語訳による「Emile Jobin氏のバッハの調律法解釈/要約和訳:綿谷優子」※1 によって知り、たいへん興味を持ちました。そして、そのデータを元に “この図”を描きました。

この調律法では、C-eとG-bに「純正三度」が設定され、「広い五度」があるのも特徴です。

厳格な響きの純正三度は、教会で発展したオルガンに不可欠な和音で、祈りを表していると考えられます。
「広い五度」は、純正三度を2つ以上作る時に出来てしまうもので、パイプオルガン調律法の名残りとも言えるでしょう。
オルガンの名手でもあるバッハが、チェンバロなどの鍵盤楽器で、すべての調を使うためにアレンジしたと考えると、極めて自然な流れの調律方法と思われます。

ピアノ調律師としては、最初、「広い五度を使うなんて」と不自然に思ったものですが、案外、ほんの少し広い五度に「色っぽい」とも思えるような音色を感じたのと同時に、オクターブを広めに調律した時の音色と共通のニュアンスを持つことに気付いて、たいへん面白く思っています。

EmileJOBIN氏の論文については、パリ在住のYokoOGERさんが訳してくださったものを掲載させていただいています。ぜひご覧ください。

渦巻き模様が表す“五度の設定”は次の様に解釈されます。(※着色は私が設定したものです)
C-e と G-b を純正三度にするために、C→Bの5つの五度を「ミーントーンの技法の濁った五度[696.5cent]」にする(三重の渦巻き→グレーに着色)。
F-C と、 B-F♯、F♯-D♭、D♭-A♭ の4つの五度を「唸りのない純正五度[702cent]」に(一重の渦巻き→白に着色)。
残り3つの五度は「ほんの少し広い五度」となる(二重の反対渦巻き→ピンクに着色)。

一番右に見える3の数字の横の一重丸は、「Cからの長三度を純正に」と解釈されています。(純正三度は黄色に着色)

この調律法は「唸りのない純正三度」から「ピタゴラス三度を超えるかなり唸りの多い三度」を持ち、 調による響きのコントラストがかなり強く出ます。
ピアノでは、よほどその気で使わないと不自然を感じる場合があります。

もちろん、バッハが想定していた調律法がこの様であったと断定されるものではありませんが、この曲“Das Wohltemperierte Clavier(日本語訳「平均律クラービア曲集」)” を『平均律で調律するべきであろう』と考えたのは早合点であった ことが指摘されてから、もう少なくとも30年以上が経っています。

バッハはきっと、『使えない調があるミーントーンではあかんよ。この曲集ではこんな風にめっちゃうまいこと調律して弾いてね☆』 と、タイトルと共にお勧めの調律法を示したのではないか・・・と、私も思っているところです。

実践履歴
2012/01/27北美登利さん宅にて坪内久美子さんの演奏で実験録音 参:ブログあんなんこんなん

※1 綿谷優子訳/Emile Jobin氏のバッハの調律法解釈 http://www.geocities.co.jp/MusicHall/4053/bach.html
※2 BACH et le Clavier bien Tempéré, par Emile Jobin http://www.clavecin-en-france.org/spip.php?article52
オジェ洋子(YokoOGER)訳/BACH et le Clavier bien Tempéré, par Emile Jobin/Emile Jobin http://pianotuning.jp/?page_id=3928

http://okamotopiano.jp 岡本ピアノ工房 岡本芳雄